「あーちゃん」になるということ

調理師
職員インタビュー

調理師
「楽しい」があふれる厨房から
日赤医療センター附属乳児院の厨房では、5人の栄養士(管理栄養士含む)と3人の調理師が働いている。
生まれて初めて食べる離乳食から、幼児食、そして医療的ケアの必要な子に向けた食事。50人以上の子どもたちの食事を一人一人の状態に合わせて用意する大変な仕事だ。
でも、今回、調理師の鈴木さんに話を聞く中で、「楽しい」という言葉がなんと52回も出てきた。
「こんなことが楽しいんです」「あんなことが出来たら楽しいと思う」と調理に対する思いやこれからの夢を、目を輝かせて本当に楽しそうに語ってくれた。
料理の原点は、4歳のリンゴの皮むきから
― 調理師になろうと思ったきっかけは?
小さいころから食べることが大好きだったんです。初めて包丁を持ったのは4歳の時で、母にリンゴの皮むきを教えてもらって。リンゴでうさちゃんとかできるようになると、料理って楽しいなあって。小さいころからお菓子屋さんとかシェフとかになりたいなって思っていたんです。それで調理を学べる高校に入って、卒業と同時に調理師の免許取って、料理の世界に入ったんです。
最初はお寺の厨房に勤めたので、そこで精進料理を学んで。その後20歳で夢だったホテルに勤めたんです。でもホテルは周りのレベルが高すぎて、ちょっと挫折を感じて、いったん料理の世界から離れたんです。
しばらく自分を見つめなおしていたんですけど、やっぱり自分には料理しかないなって思って、老人ホームで働くことにしたんです。そこで、おじいちゃん・おばあちゃんに、作った料理を美味しいって言ってもらえると、すごく嬉しくて、やる気にもなるし、自信にも繋がったんですよね。
でも精進料理、ホテルでの仕事、高齢者向けの介護食ってやってきて、ふと、「あ、私、小さい子たちのご飯、やったことないな」って思ったんです。
それでこの乳児院に見学に来たんですけど、ここは一から生の国産野菜を使って調理していて。今は便利なものがあるので、調理済みのものを温めて盛り付けるだけっていうところもある中で、ここは全然違って、本当に一から調理している。それは私にとってはベストな環境で、ここで絶対働きたいと思ったんです。
「赤ちゃんのごはん」は、知らないことだらけだった
― 乳児院に入職してどう感じましたか?

最初は知識が全然ないので大変でしたね。同じ年齢・月齢でも食べるものが全然違うんだって驚いて。一番驚いたのが調味料も発達に合わせて変えていること。例えば「魚のチリソースがけ」なんかでも、チリソースに使うお出汁は、完了食(離乳食の最終段階)はかつおだしを使っていて、幼児食は鶏がらを使っているんです。
― 幼児食と完了食って見た目はほとんど同じ時が多いですよね?量だけ違うのかと思っていました。
そう。同じように見えるけど、調味料や食材、ご飯の硬さも段階によって全部変えているんです。消化器官の発達とかを考慮しているんですね。キュウリとかも、蒸してやわらかくしたりとか。乳児院で働き始めて、ああ、まだ自分の知らないことがたくさんあるなあ、やっぱり料理の世界って面白いなあって思いました。
あと、前に働いていたところでもアレルギーのある方がいらっしゃったんですけど、その場合、ただその食材を抜くだけの除去食になるんです。同じ食事のはずなのに、周りの人と結構違う感じになっちゃうんですよね。でもここだと、アレルギーの子にも代わりの食材を使って同じようなメニューにしたり、みんなで同じものを一緒に食べられるように唐揚げの衣に卵入れるのをやめてみようとか、小麦粉の代わりに米粉使ってみようとか、いろいろやってみています。私はアレルギーの子もみんなが一緒に美味しく楽しく食べられるような食事を提供するのが夢なので、いろいろ工夫できるのは嬉しいですね。
それから、ここで働いて驚いたのが、ここの子どもたちの味覚がとても繊細なこと。ホテルで働いていた時、やっぱりお子さんたちってオムライスとかフライドポテトとか唐揚げとかそういうものが人気なんですよ。でもここの子たちは野菜や魚をいっぱい食べるんです。野菜煮とかひじき煮とか大人気で。あとはカレイの煮つけなんかもよく食べてくれますね。素材の味を生かしたものを食べていると、味覚って全然違ってくるんだなって嬉しくなります。
「食」を使っておうちの生活に近づけたい
― 行事食もすごく手をかけて作っていますよね。
行事食、楽しいですよ!!大好き!!お誕生日のケーキを作るのもすごく楽しいんです。
前に一回だけですけど、トトロが大好きな子がいて、お誕生ケーキにトトロのクッキー作って飾ってあげたことがあったんです。私も楽しかったし、子どもも嬉しいですよね。事前に担当のあーちゃんに、好きなキャラクターとかフルーツとか聞いてその子が喜ぶケーキを作るとか、今後はそういうことももっとやってみたいんです。
あと、ハンバーガーの具材を子どもたちに選んでもらって目の前で作るとか、うどんを子どもたちが足踏みで生地から作るとか。クリスマスツリーのオーナメントにみんなでクッキー焼いてアイシングもやって飾り付けるとか。
やってみたいことがたくさんあるんです。頭の中には楽しいことがいっぱい(笑)
ここは医療的ケア児が多いので、やっぱりおうちの生活とはちょっと違ってきてしまっている部分ってあると思うんです。乳児院の厨房は見えないところにあるから、普段は調理しているところって子どもたちは見ていないんですけど、たまには子どもたちの部屋の台所(※1)で料理してみるとか、「食」を使っておうちの生活に近づけられたらって思うんです。
(※1 乳児院のユニットB・Cの部屋は、一般の家庭と同じようなつくりになっており、各部屋に台所がある。)



料理は、真心でできている
私、座右の銘というか、いつも心の中にある言葉があるんです。好きなドラマの中のセリフなんですけど、
「料理は、真心だ。 技術は追いつかないこともある。 素材は望み通りにいかないこともある。 けど真心だけは、てめえ次第で、いつでも最高のものを出すことが出来る。※2」
お野菜とか食材って思い通りのものが手に入らないこともあるけど、真心だけが自分にさえあれば、美味しいものはいつでも作れるよって。料理って子どもと同じで素直なんです。イライラしているときに作る料理はなんか味に角がでちゃう。でも食べてくれる子どもたちのことを思ったり、楽しいなって思いながら作ると、まろやかになる。優しさや甘味が出るんです。
だから料理って楽しいんです。毎日本当に楽しい。料理はやめられないですね。
(※2ドラマ「天皇の料理番」より)